*「火花」を読む~タイトルの意味は?

又吉直樹の「火花」を読みました。
あの、芥川賞の「火花」です。

日本の純文学を読むのは久しぶりでしたが、
小説を読むことで漫才師の世界の舞台裏も透けて見えるので、
ドキュメンタリ的おもしろさもあります。
一方で、主人公と先輩漫才師の笑いを追求、探究している様子が
真に迫って(なにしろ書いている人が漫才師ですから)、胸が痛くもなります。

タイトルの「火花」という言葉はあまり出てきません。
読み終わって、「で、なぜ火花?」と思い、読み返して納得しました。
漫才の前フリとオチでしょうか?
ネタバレになるので、読んで納得してみてくださいね。

さらには、
綾部とコンビを組む前のコンビ「線香花火」へのオマージュかもと
深読みもしてみました。
コンビ別れは相方から言い出されたようで、相方への想いも残っているのかも?
どうなんでしょう?

さて、芥川賞受賞には賛否両論あるようですが、
この「火花」が敬遠される理由は4つあるように思います。
勝手にまとめてみました。

理由その1.ネイティブな大阪弁で、他の地域の読者は読みにくい

著者が大阪・寝屋川の出身ですし、もう一人の登場人物の神谷さんも大阪出身です。
又吉のご両親は沖縄と奄美の出身だそうですが(NHKファミリーヒストリ)、
ご本人はたぶん大阪弁しか話せないし、書き言葉も大阪弁のみ?
おかげで、舞台は東京ですが、会話はすべて大阪弁です。

「ちょっと腹たったらなあかんと思うねん」
舌噛みそうです。

これを
「ちょっと腹をたてなければいけないと思うんだよ」
とは、又吉はよう書かん(書かれへん?=書けない)。

関西弁は地域によって表現も違うようなので、なおさらわかりにくいですね。
泉州弁というのを聞いたら、まるで怒られているようでびっくりです。
明石家さんまが全国ネットで人気なのは、
ちょっとほんわかしたネイティブの奈良弁だからかも?

話は戻って、大阪弁の小説ですが、
会話でなら、なんとなく伝わるニュアンスも、
文章にされると、
わかりにくい、めんどくさいと思われることでしょう。
特に、東日本方面あたりの方?

もしかすると、又吉本人による朗読をしたDVDを作ったら、
いいんじゃないでしょうか?
紙よりも売れるかもしれません。

理由その2.テーマが「お笑い」(漫才)

お笑いに興味がない人にはまったくどうでもいい理屈のオンパレード。
とにかく、お笑いのことだけ。
それはそうです。
又吉自身は芥川賞受賞の記者会見で、
これからも漫才100で行くと行っているのですから。

自分にとっての100でも、
聴衆に受けるかどうかは(聴衆にもよるし)、その場にならないとわからない。
そんなお笑いの世界です。

少し前のことですが、
M-1グランプリで、予選落ちしていたサンドウィッチマンが
敗者復活戦から上がってきてグランプリを受賞した時、
笑いの神はまさしくサンドウィッチマンに降りてきて、
日本中のお笑い好きは、ぞわっと背筋がしたと思います(いい意味で)。

ちなみに、「ピース」は
2010年 キングオブコント準優勝
2010年 M-1グランプリ4位
といった受賞歴があることは
あんまり世間には知られていないようです。
受賞したのは又吉ですが、
マスコミにはもっとコンビのネタも紹介してほしいですね~。

さて、「ピース」は吉本の所属ですが、
「火花」の20歳の新人漫才師は小さな事務所に所属して
小さな劇場の仕事と深夜バイトで暮らしています。

又吉のようで又吉でない主人公と彼のお笑いへの情熱が
文章の端々ににじみ出ているので、
お笑いに興味を持ってもらうと、小説をもっと楽しめるはず?

理由その3.神谷さんの才能がわからない

主人公は4歳年上の先輩漫才師の神谷さんの才能をすごいと慕い、
弟子にしてくれと言うのですが、
その神谷さんの才能の素晴らしさが伝わってこない。
私に伝わってこないのは、
漫才師ではない素人だからかもしれませんが、
最後のオチでの言動を、神谷さんの才能の片りんと見るかどうか???
漫才なら「もう、ええわ」で終わりますが、
小説の中の主人公や登場人物の人生には終わりがなく、
そういった意味では、ちょっとファンタジックな終わり方だと思いました。

理由その4.文章がくどい

小説の中では静かに時間が流れ、描写が丁寧です。
太宰治にあこがれているというだけあって、暗いです。
しかも、
言ってしまえば、くどくどして、メンドクサイ。

暑い、と一言ですませればいいのに、
「太陽」や「蝉の声」といったもので暑さを表現している。
あ、それが文学というもの?

セリフだけ拾い読みしてしまうせっかちさんには、
この丁寧な風景描写とお笑いへの考察を含めた心情描写が長すぎて、
飽きてしまうかもしれません。

売れない漫才師としての将来への不安、
自分のお笑いの才能への不安、
相方とのお笑いへの思い入れのずれ、などなど、
アタマの中ではめまぐるしく動いているのですが、
そのあたりの陰気さはなく、
全体にゆるゆるとした時間の流れを描写しています。
静かなる前向きさとでもいいましょうか?

当然、ストーリーは平板で、
起承転結はあまりなく、だらだらと時が流れます。
事件が起こったようでもあり、そうでもなく、終わります。

優しい物語です。
くどくどしいと書きましたが、
書いてるヒトの優しさやオモテに出さない静かな情熱が感じられます。
ぜひ読んでみてくださいね。

それから、又吉は、
5回の心中未遂後に自殺した太宰治にあこがれているというので
(芥川龍之介の句集も愛読しているとか)
ひそかに心配していましたが、
「生きている限り、バッドエンドはない」
と、「火花」の終わりの方に書かれていました。

あこがれている人たちと同じ人生の終わり方はめざしていないよう?
ひとり胸をなでおろし、
できれば、もっと漫才やコントで日本中から親しまれますようにと願いながら
本を閉じました。

いずれにしても、
本業をやりながら、
こうして一つの小説を書きまとめられるのですから、素晴らしいですね。

以上、一読者の勝手な読書感想文でした。

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ネットでもコンビニでも新刊は買えるのですが???

  

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